昨日は台風25号の影響で、猛烈な大雨でした。近所の道路がまるで濁流の川のようになっていて、家の中でじっと過ぎ去るのを待つしかなかったのですが、朝目覚めて窓の外を覗くと、すっかり路面は乾いていました。
「あ、これはバイクで走り出したら絶対に気持ちいいやつだ……」
そう思ったものの、8月頃からどうも倦怠感が抜けず、頭も体もナマケモノのように重たい状態。一度はそのまま布団に逆戻りしてしまいました。
ここ最近の体調不良は、連休前に心療内科で出されたお薬の影響もあったのかもしれません(体に合わなくて体調が余計に悪化するので、今は飲むのをやめているのですが)。
でも、そのままゴロゴロしていたら、不思議なことに数分で「よし、なんとなく行ってみるか!」という気力がじわじわと湧いてきたのです。
布団をバサッと蹴飛ばし、身支度を整えて外へ飛び出しました。
体調不良のどん底を抜け出せた、ちょっとした記念すべき瞬間だったのかもしれません。
バイクのエンジンをかけて走り出すと、身体全体で受け止める風が本当に心地いい。
台風が一気に空の汚れを吹き払ってくれたおかげで、目の前にはどこまでも澄み渡る秋の青空が広がっていました。
遠くには筑波山が、まるで空にぽっかりと浮かんでいるかのように見えて、思わずヘルメットの中でニンマリしてしまいました。
やっぱり思い切って外に出て正解でした。

今回の目的地は、茨城県常総市にある弘経寺です。
到着して真っ先に目に入ったのが、お寺の横にある斜面。
昨日のあの大雨と暴風でしたから「なぎ倒されているかも……」と心配していたのですが、そんな杞憂をあざ笑うかのように、彼岸花たちがシャキッと立ち誇っていました。
台風に負けないその力強さに、なんだかこちらまで元気をもらえます。

ここで少しだけ、このお寺の歴史について触れておきますね。
正式名称は「寿亀山天樹院弘経寺(じゅきさん てんじゅいん ぐぎょうじ)」。
応永21年(1414年)に嘆誉良肇上人によって創建された浄土宗の名刹で、あの大本山増上寺の別院という非常に格の高いお寺です。
室町時代には関東浄土宗の中心的な学問所(檀林)として大いに繁栄したのですが、戦国時代の戦火に巻き込まれ、一度は荒廃してしまいました。
その後、江戸時代に入ってから第十世照誉了学上人の手によって見事に再興を果たします。

そして、この弘経寺を語る上で欠かせない歴史上の重要人物が、徳川家康の孫であり、二代将軍秀忠の娘でもある千姫(天樹院)です。
了学上人に深く帰依していた千姫は、かつて荒廃していたこのお寺の状況を知り、莫大な寄進を行って自らの菩提寺と定めました。
本堂の左手奥へと進むと、彼女の遺言に従って遺骨の一部が納められた墓所が静かにたたずんでいます。
寺内には千姫の姿絵やゆかりの遺品も大切に伝えられており、歴史ファンはもちろん、春の桜や秋の彼岸花のシーズンには、その歴史の情緒に浸ろうと多くの人が足を運びます。

そんな歴史ある境内に咲き誇る彼岸花は、なんと約3万〜5万株。
実はこれ、業者さんがドカンと植えたわけではなく、檀家さんたちが約40年前からコツコツと植え始めたものが、長い年月をかけて少しずつ増えていったものだそうです。愛を感じますよね。
参道脇や木漏れ日が差し込む杉林の下、千姫の墓所周辺、土手など、境内のあちこちに群生地が点在しています。
特に木立の間に真っ赤な花がひしめき合う光景は圧巻の一言。
まるで足元に鮮やかな赤い絨毯を敷き詰めたかのようで、歴史を重ねた古びた伽藍や石仏、苔むした石段とのコントラストが、ため息が出るほど美しいのです。
……と、ここまで大絶賛しておいてアレなのですが、ちょっと正直な写真家目線のインプレッションも書かせてください。

こちらの木々の下で咲く区画。
かなり昔に訪れたときは、本当にすき間もないほど「密!密!」という感じで彼岸花が咲き乱れる、まさに完璧な群生エリアでした。
それに比べると、現在は少し密度が減ってスカスカした印象になってしまっていて、個人的には「うーん、ちょっと残念だなあ」というのが本音です。
花の間に雑草が伸びてしまっていて、そのまま撮ると少し雑然として見えてしまいます。
その影響からか、近年は最盛期であっても以前ほどの凄まじい大混雑にはならず、駐車場も「程よく満車」という落ち着いた状況が続いています。
混雑を避けてゆったり鑑賞したい方には、逆に狙い目かもしれません。

こちらは防火水槽のある区画。
全体的には見頃を迎えていましたが、よく見るとまだつぼみもちらほら残っていました。
これから咲く花もあるので、もう少し楽しめそうな雰囲気です。

先ほどの木々の下とは対照的に、こちらの区画は今年、かなり密密に彼岸花が咲き揃っていました!
エリアによって年ごとに出来不出来があるのも、自然相手の撮影の面白さであり、難しさですね。

昨夜の激しい雨のおかげで、足元には小さな水たまりがいくつか残っていました。
はい、全国のカメラ好きの皆さんなら分かっていただけますよね。
私、こういうちょっとした水たまりに映り込む「リフレクション」が大大好物なんです。
レンズを地面すれすれまで下げて、水面に映る赤と青空をローアングルで狙う時間は、至福以外の何物でもありません。

こちらの区画も年々彼岸花が増えてきていて、見応えが出てきました。
ただ、地面一面に枯葉が広がっていて全体が茶色っぽくなっているため、そのまま普通にシャッターを切ると雑多な印象になってしまいます。
「ボケをどう使うか」「どの角度から光を拾うか」、ファインダーを覗きながらウンウンと頭をフル回転させて構図を練る、腕の見せ所なエリアです。

手水舎に近づいてみると、水面に彼岸花が、そっと浮かべられていました。粋な演出に心が和みます。
彼岸花(ヒガンバナ/曼珠沙華)という花は、秋分の頃になると葉もない状態から突如として花茎を伸ばし、鮮やかな花を咲かせるという非常にユニークな生態を持っています。
仏教においては「曼珠沙華」と呼ばれ、天から降るめでたい花とされる一方で、三途の川のほとりに咲くという切ない伝承があったり、根に毒を持つことからネズミ除けとして墓地周辺に植えられてきた歴史があったりします。
おめでたい聖なる花であり、どこか死や寂しさを予感させる影のある花でもある。こうした二面性を持つ花だからこそ、歴史ある古寺の境内で静かに鑑賞すると、その独特の妖艶な魅力がより一層引き立つのだと感じます。

弘経寺の彼岸花は真っ赤なものが主流ですが、実はひっそりと白い彼岸花も混ざって咲いているのが大きな特徴です。
朝の柔らかい光や、木々の間から漏れ出る光芒が花びらに差し込む瞬間は、息をのむほど幻想的。
早朝から本格的なカメラを構えた写真好きの方々が集まってくるのも納得のロケーションです。
例年の見頃は9月下旬から10月上旬頃。その年の気温や台風などの天候によって時期は前後しますが、ピーク時には境内全体が燃えるような赤に包まれます。
人混みを避けてじっくり写真を撮りたい方は、静寂に包まれる早朝の時間帯に訪問するのがダンゼンおすすめです。

戦国の世に翻弄された千姫の波乱に満ちた生涯と、彼女が愛した菩提寺で今も変わらず静かに咲き誇る彼岸花。弘経寺は、歴史の重みと豊かな自然が見事に調和した、本当に素晴らしい空間でした。
深みのある赤色が古寺の落ち着いた雰囲気をより引き立ててくれて、全身で「ああ、秋が来たんだな」と実感することができました。
体調が優れず、最初は布団の中でぐったりしていた私ですが、バイクを走らせてこの場所に立ち、カメラを通して綺麗な花々と向き合っているうちに、いつの間にか心も身体もすっかり軽くなっていたから不思議です。
写真と自然のパワーって、本当にすごいですね。
彼岸花の見頃は思いのほか短く、あっという間に過ぎ去ってしまいます。
もしタイミングが合いましたら、ぜひ足を運んでみてください。
静かな境内で真っ赤な花々に囲まれながら過ごすひとときは、日々の忙しさや疲れを忘れさせてくれる、特別な時間になるはずですよ。


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