長禅寺のロウバイは見頃でした2026

冬の凍てつく空気のなか、茨城県取手市にある長禅寺を訪ねてきました。

きっかけは、ふとした瞬間に冬の静寂に身を置きたくなったからです。歴史の重みを感じつつ、季節の移ろいを肌で感じられる場所はないかと探していたところ、平将門ゆかりの古刹であるこのお寺が目に留まりました。承平元年(931年)に平将門が祈願寺として創建したと伝えられる場所ですから、歴史の深さは折り紙付きです。

当日の気温は低く、空気がピリッと張り詰めていましたが、空を見上げれば見事な快晴。降り注ぐ陽射しが、冬の冷たさを優しく包み込んでくれるような、穏やかで暖かい一日でした。

取手駅東口から歩いてわずか5分。賑やかな駅前の雰囲気から一転、目の前に現れる小高い丘には、まるで別世界へ続く入口のような静謐な空気が漂っています。石段を上がりきった私の鼻を真っ先にくすぐったのは、ロウバイの甘く清々しい香りでした。ちょうど見頃を迎えていたロウバイが、透き通った黄色い花弁を陽光に輝かせています。

この香りを嗅ぐだけで、凍えた心まで少しずつ解きほぐされていくような、そんな安らぎを覚えました。冬の厳しい寒さのなかで、春の訪れをいち早く知らせてくれるこの花の健気さには、分析的な観点を抜きにしても、ただただ感銘を受けてしまいます。

境内を進むと、一際存在感を放つ建物が見えてきます。茨城県指定文化財の長禅寺・三世堂(さんせいどう)です。ここは、外観2層・内部3層の「さざえ堂」形式を持つ非常に珍しい建築です。さざえ堂は全国にわずか6棟しか残っていないそうで、その希少価値の高さに背筋が伸びる思いがします。

上り下りが別々の二重螺旋構造により、参拝者が交差せず合理的に百観音巡りができる仕組みは、江戸時代の優れた設計思想が光ります。1階に坂東三十三箇所、2階に秩父三十四箇所、3階に西国三十三箇所の本尊の写しが安置され、合計百体の観音像を一度に拝めるという、まさに「江戸時代のタイムパフォーマンスの極致」とも言える合理的な空間です。普段は非公開ですが、例年4月18日の百観音祭りなどで特別公開されますので、その機会を狙って訪れるのがおすすめです。

また、寒空の下で鮮やかに咲く山茶花の姿もあり、冬の色彩に乏しい景色に彩りを添えてくれていました。

境内の池に目を向けると、そこには優雅に泳ぐ錦鯉の姿がありました。透明度の高い水の中で、赤や白の鮮やかな色彩が美しく映えています。水の音と魚のゆっくりとした動きが、静かな寺院の中に心地よい動的な変化をもたらしており、いつまでも眺めていられるような不思議な没入感がありました。

さて、これまでにお話しした歴史ある長禅寺は、実は「とりで利根川七福神」巡りの第七番・大黒天を祀る場所でもあります。大黒天は「有福の権化」とも呼ばれ、商売繁盛や縁結びにもご利益があるとされています。打ち出の小槌を持った姿を思い浮かべながら、新しい一年の福を願うのも良いかもしれません。

実際に訪れる方へのアドバイスとしては、取手駅からのアクセスは抜群ですが、境内には見学者用の駐車場がありません。無理に車で近づこうとせず、周辺のコインパーキングを利用するか、公共交通機関で訪れて駅からのんびりと坂道を歩くのが正解です。特に今の時期は、ロウバイの香りに誘われて歩く時間は、何物にも代えがたい贅沢なひとときになります。

今回の訪問で改めて感じたのは、歴史とはただ知識として蓄えるものではなく、その場の空気や香りと共に体験するものだということです。平将門が祈願寺として創建し、徳川家光ら歴代将軍も崇敬して朱印地を賜ったというこの場所には、千年の時を超えて人々の願いが積み重なっています。ここは、明治の文豪・菊池幽芳が恋を育んだ舞台としても知られており、硬軟あわせ持った物語が詰まっています。
次は、三世堂の内部が公開される春の陽気のなかで、あの不思議な螺旋階段を実際に自分の足で上ってみたいと思います。冬のロウバイ、春の観音巡り、そして「かつてはここから見えたはずの利根川」を心に描きながら歩く歴史の追体験。長禅寺には、訪れるたびに新しい発見と、五感を刺激する感動が待っているはずです。
たとえ川の流れが直接見えなくても、この丘に立てば、時を越えて受け継がれてきた静謐な空気だけは確かに感じることができます。皆さんも、日常の喧騒を少しだけ忘れて、この「見えない景色まで楽しむ丘」へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

【茨城県】取手市|長禅寺
基本情報コメント:取手利根川七福神のひとつ大黒天様です。茨城県指定文化財である三世堂は数少ない「さざえ堂(外観2層、内部3層)」形式となっています。ロウバイ、あじさいが境内に咲きます。評価(5段階):撮応え:2 見応え:2 混雑度:1 (5...

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