春の足音が聞こえてくると、無性にピンク色が恋しくなりませんか。私は先日、いてもたってもいられなくなり、一足早いお花見へと出かけてきました。
目的地は、江戸川沿いに咲き誇る河津桜。ネットの情報を頼りに、期待を胸に京成江戸川駅で下車しました。ここは東京都江戸川区北小岩1丁目。市川橋のたもとに桜があるという情報に、心は踊ります。

ところが、現地に到着して愕然としました。なんと、桜が4本しかありません。私の論理的な計算では、ネットの画像に写っていた4本の背後に、まだ見ぬ桃源郷が広がっているはずだったのですが……。まさかの少数精鋭スタイルに、正直なところ「ちょっとした肩透かし」を食らった気分でした。
しかし、ここで諦めてはいけません。冷静に分析すると、対岸の千葉県側により豊かな並木があるはずです。

少し下流へ歩き、江戸川越しに対岸を観察してみます。望遠レンズの圧縮効果を使うと、あちらの桜並木がぎゅっと凝縮されて見えます。「あっちが本命だ」と確信し、市川橋を渡って千葉県市川市側へと足を踏み入れました。

到着したのは、市川南の江戸川土手(市川南4丁目付近)。ここは「桜オーナー制度」によって管理されている約40本の河津桜が並ぶ、知る人ぞ知る名所です。スーパー堤防の上に等間隔で整列する姿は実に見事で、開放感たっぷり。青空の下を歩いているだけで、先ほどの肩透かし感はどこかへ吹き飛んでいきました。

それにしても、河津桜の色彩は圧倒的です。濃いピンクのつぼみがほころび、淡いグラデーションを描く姿は、まさに早咲きならではの生命力に満ちています。青空とのコントラストはもちろん、江戸川の水面、そして遠くにそびえる東京スカイツリーを背景にした借景は、写真好きにはたまらない贅沢な構図です。

ただ、この美しさに惹かれるのは私だけではありません。土手は多くのファミリーで大賑わいでした。あちこちでプロのカメラマンを帯同させた本格的な家族撮影会が開催されており、主要な木の下はどこも「予約済み」のような状態。セミアマチュアサンデーカメラマンを自認する私は、なんだか居場所がないような、無言の圧力を感じてしまいました。彼らの邪魔をしないように気を遣いながらシャッターを切るのは、なかなか精神を削られる作業です。静かに花と対話したい派の方は、訪問時間を工夫する必要があるかもしれません。

それでも、賑わい自体は春の訪れを感じさせる温かいものでした。レジャーシートを広げる家族、駆け回る子どもたちの笑い声。平和な日常の中に、鮮やかなピンクが溶け込んでいます。

並木を歩いていると、嬉しい出会いもありました。ヒヨドリが花の蜜を吸いにやってきたのです。忙しなく動く彼らの一瞬を捉えるのは大変でしたが、ファインダー越しに目が合ったような気がして、思わず口角が上がりました。

帰路はJR市川駅方面へと向かいました。その途中のマンションの陰で、思いがけない「穴場」を見つけました。ひっそりと、しかし力強く咲く河津桜。ここには人影もなく、私はようやく誰に気を遣うこともなく、心ゆくまでシャッターを切ることができました。枝の柔らかな曲線が青空に描く模様は、賑やかなメインエリアとは一味違う、静寂の美しさを湛えていました。
2026年の今年は例年より開花が早く、2月下旬に満開を迎えました。本日3月1日現在、まだ見頃を保っている木も多いですが、少しずつ緑の葉が混じり始めています。ピークは過ぎつつありますが、その儚さもまた、日本の春の醍醐味でしょう。
今回の散策で改めて感じたのは、情報はあくまで「きっかけ」に過ぎないということです。たとえ最初は4本しかなくて驚いたとしても、歩みを止めなければ必ず自分だけの「最高の一枚」に出会えます。来年は、もっと早い時間に訪れて、朝の光に透けるピンクを独り占めしてみたい。そんな期待を胸に、私は心地よい疲労感とともに江戸川を後にしました。
(了)


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