三連休の最終日、私は千葉県柏市にある「あけぼの山農業公園」へ向かいました。
目的はもちろん、紅葉の撮影です。

この三連休、初日は素晴らしい秋晴れでした。
本来ならば絶好の撮影日和となるはずでしたが、私は自宅の布団という結界から一歩も出ることができませんでした。
原因は、前日に行われた会社の歓送迎会によるダメージです。
具体的には胃痛、頭痛、そして激しい肩こり。
ここで誤解なきよう論理的に説明しておきますが、これは決して「二日酔い」ではありません。
なぜなら、私はお酒が一滴も飲めないからです。
これは純粋な「人間疲れ」という名の現代病です。
二日目は体調こそ回復傾向にあったものの、空はあいにくの曇天。
そして迎えた最終日、朝からスコーンと抜けるような青空が広がっていました。
「今年最後の三連休」というワードを耳にしましたが、なんだか今年初めて聞いたような気がします。
この言葉に統計的な優位性や深い意味があるのかは不明ですが、とにかくこの好機を逃す手はありません。
少しばかりのモヤモヤを抱えつつ車を走らせていると、北西の空に異様な黒い煙が滞留しているのが視認できました。
「まさか、この雲のような物質で太陽を覆い隠すつもりか?」と一瞬、自然界の悪意を疑いましたが、どうやら坂東市方面で廃プラスチックリサイクル工場の火災が発生していたようです。
撮影への道中、予期せぬノイズが入りましたが、気を取り直して現地へ向かいます。

まずは日本庭園から散策を開始しました。
庭園内のイロハモミジは、まさに今が見頃と言わんばかりに赤く染まっています。
一方で、柏泉亭周辺の紅葉はまだ緑色が残るグラデーション状態で、これはこれで趣深いものがあります。

池の周囲も美しく色づき、水面に映るリフレクションと青空のコントラストは、視覚的快楽を大いに刺激してくれます。

特筆すべきは、日本庭園の裏手、さくら山へと登るエリアです。
ここの紅葉が朝日の逆光を浴びて輝く様は、筆舌に尽くしがたい美しさでした。
透過光によって葉の脈までが鮮明に浮かび上がり、ここで私の撮影に対するモチベーション、いわゆる「テンション」の数値がグッと跳ね上がりました。
光をどう読むか、これこそが撮影の醍醐味です。

続いて、風車のある畑エリアへ移動します。
果樹園側の畑では、すでにポピーの青い芽が顔を出していました。

風車前のメイン花壇では、ビオラとチューリップの球根が整然と植えられています。
季節は確実に冬、そしてその先の春へと進んでいることを客観的事実として突きつけられます。
並木道のメタセコイアは色づき始めてはいるものの、まだ緑の要素が強く、黄金色に輝くにはもう少し時間が必要という分析結果になりました。

ここで、私の論理的思考を刺激する不可解な事象に遭遇しました。
「たねダンゴが植えられています」と書かれたプレートが地面に刺さっているのです。
はて? たねダンゴとは?
「たね」であることは文脈から推測可能ですが、「ダンゴ」とは一体何を指すのでしょうか。
気になって調べたところ、「たねダンゴ」は公益社団法人日本家庭園芸普及協会の登録商標であることが判明しました。
ということは、厳密には「たねダンゴ®」と表記すべきではないでしょうか。
まあ、Rマークの表示は商標法上の義務ではありませんが、権利関係をクリアにしたい性格としては気になります。
定義としては「土、花の種、肥料を混ぜて作った土の団子を植え付ける新しい手法」とのこと。
単に「種が植えられています」と書けば万人に伝わるものを、あえて専門用語(しかも登録商標)を使用するあたり、何らかの啓蒙的な意図、あるいは「知っている人にはわかる」というハイコンテクストなコミュニケーションを求めているのかもしれません。
少々理屈っぽいことを考えましたが、ひとつ知識が増えたことに関しては感謝しておきます。

本館前の花畑の片隅では、皇帝ダリアが一株だけ咲いていました。
以前はもっと群生していた記憶があるのですが、生存競争の結果なのか、この一株だけが孤高の存在として青空に薄紫色を添えていました。
その凛とした姿は、美しくもあり、どこか哀愁も感じさせます。

さて、一通り園内を回り、再び日本庭園へ戻ってきました。
私にはここでお気に入りの撮影スポットがあります。
ワクワクしながらその場所へ向かったのですが、そこではお子様の撮影会が絶賛開催中でした。
まあ、公共の場所ですから占有権はありません。
しばらく待てば移動されるだろうと、私は論理的かつ紳士的に近辺で待機することにしました。
しかし、待てど暮らせど撮影が終わる気配がありません。 状況を分析します。
- 被写体は子供、撮影者は親御さん(推定)
- 通路を完全に塞ぐ形で撮影を継続
- 他の来園者は、撮影の邪魔にならないよう遠慮して遠回りをしたり、脇の段差を乗り越えたりしている
- 特に高齢の方は、その段差を越えるのに明らかに苦労している
私はしばらく様子を見ていましたが、撮影者は周囲の状況を一切スキャンしていないようでした。ファインダーの中の世界に没入するあまり、現実世界の他者がレンダリングされていないのでしょう。ようやく人通りが途絶えたタイミングで、撮影者から私に向かって「どうぞ」という言葉が発せられました。「通過してもよい」という許可です。
その瞬間、私の中で何かの回路がショートしました。プツン、と。
「私はここを通過したいのではなく、ここで撮影がしたいだけです。あなたたちがそこで撮影している長い間、ここが通過できないので、あなたの後ろの段差を乗り越えて、足の悪い高齢の方も無理に避けて行ったんですよ。撮影したい人たちも、みなさん諦めてどこかに行きましたよ」
気がつけば、感情と論理が入り混じった主張を口にしていました。 相手は何も言わず、子供たちをまとめて立ち去って行きました。一応、この状況証拠として現場の様子を記録撮影し、公開の可否を確認しようかと思いましたが、無言での退去だったため、こちらの都合の良いように解釈させていただくことにします。

天気は最高、光も最高。しかし、このインシデントによって私の精神的ステータスは著しく低下しました。 撮影スランプからの脱却を図るための訪問でしたが、繊細なメンタルを持つ私にとって、こうしたストレスは致命的なエラー要因となります。どうやら、スランプという名のトンネルを抜けるには、もう少し複雑なアルゴリズムの解析が必要なようです。
【あけぼの山農業公園 訪問メモ】
・イロハモミジ:見頃です。特に逆光での撮影がおすすめ。
・メタセコイア:まだ少し緑が残っています。見頃はもう少し先。
・混雑状況:休日は家族連れで賑わいます。譲り合いの精神装備が必須です。
・注意点:周囲への配慮を忘れずに。私のようにならないよう、心に余裕を持って訪れてください。


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